近年、気候変動の影響等により、既存の想定を上回る災害が多く発生しており、いつ起きてもおかしくないとされる南海トラフ地震、首都直下地震等の大規模地震の切迫性に加えて、集中豪雨や雪害といった過去の災害教訓を踏まえると、行政による対応のみでは被災者の救助や消火活動等に限界があるため、住民自身・相互の活動体制をいかに整えるかが課題となっています。
そこで、「自分たちの地域は自分たちで守る」という自覚、連帯感に基づき、自主的に結成された組織が自主防災組織です。平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災を契機にその重要性が見直され、各地で組織の結成・育成が積極的に取り組まれています(令和5年4月1日現在、16万6,923団体)。自主防災組織は、平常時には防災訓練の実施、防災知識の普及啓発、災害危険箇所の点検、資器材の購入・点検等を行うとともに、災害時には初期消火、避難誘導、救出・救護、情報の収集・伝達、給食・給水、災害危険箇所の巡視等を行います。
連携による活動の活性化
図 様々な地域活動団体との連携とそのメリット
地域の安心安全を守るために活動している自主防災組織が、地域の垣根を越えて互いに連携し、また、消防団、学校、企業など地域の様々な防災活動団体と連携し、お互いの得意分野を活かして補完し合うことで、地域の防災力をより高めることができるようになります(図)。
ここでは、「第28回防災まちづくり大賞」において、総務大臣賞を受賞された福岡県北九州市の若松区東28区市民防災会の取組を紹介します。
取組の背景
若松区東28区市民防災会は、北九州市若松区畠田一丁目および二丁目に位置する約300世帯、約800人の小さな住宅地です。平成25年に地域の大半が土砂災害警戒区域に指定されたものの、当時の住民の防災意識は低く、小学校区で行われた防災訓練にはわずか4名しか参加しませんでした。この状況に危機感を覚えた住民6名による畠田防災実行委員会が立ち上がり、全住民が主体的に防災に取り組むことを目指し活動を始めました。実行委員会が活動を企画し市民防災会に提案することで、自治会組織を土台に全世帯が積極的に参加する活動に発展しています。
取組内容
「畠田緊急ネットワーク」という災害時の連絡体制を整備し、毎年、事前研修、防災訓練、訓練シートでの意識把握、事後研修を行っています。このネットワークは、組(10世帯~40世帯)を数世帯の近隣住民のグループに分け、早期避難が必要な高齢者や障がい者に確実に情報がいきわたることを目的に、効率的な連絡網と互いに助け合える関係を作り出しています。また、組単位で全世帯が話し合いネットワークを更新しており、毎月全世帯配布の町内広報紙とLINEで活動の呼び掛けと実績報告をしています。
取組の成果
毎年の防災訓練には200~250人が参加し、グループ単位で助け合って連絡・行動することが定着しつつあり、非常持ち出し品の準備・点検、循環備蓄などを問う訓練シートには90~95%の世帯が取り組んでいます。
出水期や台風の襲来で毎年数回「避難準備」が発令されますが、その都度、緊急ネットワークで住民同士が連絡を取り合い、高齢者世帯等では家族宅やホテル、市民センターに早めに避難することが常識化しています。
このように、普段から、地域における人的ネットワーク(つながり、結びつき)を広げ、地域コミュニティの強化を図ることが、いざという時に大きな力となります。
防災まちづくり大賞受賞団体の取組については、「防災まちづくり大賞受賞事例集」にまとめています。また、自主防災組織については、消防庁が作成した「自主防災組織の手引」に詳しく記載しています。それぞれ、下記のURLからご覧いただけますので、ぜひ参考にしてください。
●第28回防災まちづくり大賞受賞事例集(令和5年度)
https://www.fdma.go.jp/mission/bousai/ikusei/items/ikusei002_09_jirei28th.pdf
●自主防災組織の手引(令和5年3月改訂)
https://www.fdma.go.jp/mission/bousai/ikusei/items/bousai_R5_3.pdf
(総務省消防庁「消防の動き」 2024年7月号より)